パトリシア・ハイスミス-世界の終わりの物語

世界の終わりの物語

晩年のハイスミスが、自然界と人間のさまざまな崩壊の物語を綴った
生体実験の遺体を埋めたオーストリアの墓地に、異常繁殖する巨大キノコの謎。放射性廃棄物の処理に困ったアメリカ政府が打った秘策と、そのかげで起きた恐るべき事故。高級高層マンションを突然襲う、巨大ゴキブリの恐怖。おそろしく、おぞましく、そしてとびきり面白い、愚かな人間たちの物語。

パトリシア・ハイスミスの小説は「11の物語」だけ読んでいてまあまあぐらいに思っていたんだけど、何となく読んだこの「世界の終わりの物語」ではガツンとやられた。
解説で若島正も書いているけど、ブラック・ユーモアというオブラートに包まれた言葉では表せないほどの毒気に満ちている短編集。


まだスラップスティックな「白鯨Ⅱ あるいはミサイル・ホェール」、「『翡翠の塔』始末記」、「自由万歳!ホワイトハウスでピクニック」あたりはいいんだけど「『子宮貸します』対『強い正義』」、「見えない最期」とかはヤバイ。
"私はこういう意見を持っているんで、だから賛成or反対なんですよ"みたいな書き方をしてくれれば共感なり反発なりできるのだが、ハイスミスは冷酷に世相にメスを突き立てるだけなんで読者は途方に暮れるしかない。





「世界の終わりの物語」と平行してル=グウィンの「なつかしく謎めいて」を読んでいる。
ル=グウィンは9・11後にも「なつかしく謎めいて」のような奇想天外なホラ話を書いてくれたが、もしパトリシア・ハイスミスが9・11後の今も生きていたら、どんな小説を書いていただろうか。
読みたいような、読みたくないような・・・。
☆☆☆☆☆