エリザベス・ムーン-くらやみの速さはどれくらい

くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

ネビュラ賞受賞〉製薬会社に勤め、幸せな日々を送っていた自閉症のルウは、画期的な治療法があると知らされるが......人間のほんとうの幸せとは何かを描く、21世紀版『アルジャーノンに花束を』。

ネビュラ賞受賞ってことでSFを期待して読んだんですが、自幼児なら自閉症が治療可能な近未来"って設定なだけでガチにSFなわけじゃありませんでした。だが、そんな事はどうでもいい。
面白いから。ガチに面白いから。


主人公は幼児期の自閉症治療が確立させる前の最後の世代の自閉症者で、多国籍企業の製薬会社にプログラマとして雇われている。
(調べてみたらマイクロソフト社のプログラマの25%が自閉症アスペルガー症候群だという情報があった)
その主人公の内面・主観描写が見事で、それを通して自閉症者が抱える社会的・人間的な問題が浮き彫りにされる。
同時にグレッグ・イーガン的なアイデンティティの問題(脳のニューロンネットワークを少しばかり変容させたとしたら自分の自己同一性はどうなるのか?など)も提示され、興味深い。
そういった問題を受け止めた上での、主人公が行き着くエンディングは、ハッピーエンドともバッドエンドとも判断がつきかねるもので、それを読み終えた時の名状しがたい感覚・感動は、イーガンの「しあわせの理由」を読み終えた時と少し似ている。


自閉症に興味のあるなしに関わらず、万人に勧めたい傑作。
☆☆☆☆☆