ジョージ・アレック・エフィンジャー-太陽の炎

太陽の炎 (ハヤカワ文庫SF)

陰謀うずまく近未来アラブの犯罪都市ブーダイーン。この暗黒街で一匹狼を気どってたおれ、マリードも、今じゃ顔役“パパ”の雇われ警官だ。金と権力こそあれど、しょせん使い走り同然の身。なじみの女や友人の、冷たい視線が気にかかる。おまけにお膝元のこの街に、怪しい気配が立ちこめてきた。幼児売買に謎の殺人。名誉挽回のチャンスとばかり、捜査に乗りだすおれを待つものは?好評『重力が衰えるとき』続篇登場。

ずっと前から探していたマリード・オードラーンシリーズ第二弾。これを飛ばして「電脳砂漠」は読んでるからだいたいの結末はわかってるんだけど、それでも面白さは損なわれることは無かった。というかわりと真剣にエフィンジャーってこんなに上手かったっけ?と思ってしまうほど。
イスラムサイバーパンク・ハードボイルドとでもいえる小説でで、それからも分かるようにかなりごった煮感がある。けれどストーリーラインは最後までぶれず、牽引力は失われない。
それに何といっても主人公マリード・オードーラーンのキャラクター造形がすごく良い。浅倉久志氏は訳者あとがきにて「これはフィリップ・マーロウにあこがれたひとりの人間が、たまたま相当な権力と相当な収入を手に入れてしまった場合に、どこまで自分の堕落を防ぎとめられるか、けっして甘くない現実の中で、どこまで自分の主義をつらぬけるかを描いた、一種の教養小説なのだ」と述べている。そんな人間でありながら「鏡の中のおれはいつもひでえつらだ。実物のほうはもっと美男子だと、固い信念を持つことにしている」主人公はやっぱり良いですよ。


もっとマリード・オードラーンシリーズが読みたかった・・・。洋書で未完の続編を収録した「Budayeen Nights」があるけど、浅倉久志氏がてこずる小説を読めるわけないしなあ。木戸英判氏の内容紹介を見るかぎりではとても面白そうなのだが。
☆☆☆☆☆