ポール・J・マコーリイ-フェアリイ・ランド

フェアリイ・ランド (ハヤカワ文庫SF)

21世紀初頭、気候の大変動に悩まされ、人間の遺伝子からつくられた「動物」が使役されるヨーロッパ。非合法ぎりぎりのドラッグを製造する主人公は、ある日不思議な天才少女と出会い、彼女を求めて旅立つが…。

イギリスの作家、ポール・J・マコーリイのアーサー・C・クラーク賞を受賞したナノテクSF。


やたらめったら過剰とも言えるほどに投入されるSF的ガジェットと多人数視点のこんがらがったストーリーに惑わされがちですが、蓋を開けてみれば何のことは無い、聖杯探求型のボーイミーツガールもの(この場合は中年ミーツガールか)でした。
例えて言うなら、主人公:アレックスとヒロイン:ミレーナの関係は攻殻機動隊のバトーと素子のようなものでしょうか。
男は彼女のために悪戦苦闘するけど、結局はそれもお釈迦様の手の上、みたいな。
本作の主人公:レックスの言葉を借りれば、
わたしがマーリンなら彼女はニエムですがね。わたしは彼女に秘密を教え、彼女はわたしを自分の頭の中という洞窟に閉じ込めた」って感じ。
まあ、そんな具合の物語が近未来の爛熟と頽廃に彩られたヨーロッパを舞台に展開されるわけです。
SFとしての魅力も十二分にあり、しかも筆が達者なんでかなり面白いです。
個人的にはそれに加えて、そこに投入されているガジェットの元ネタ探しが楽しかった。
神出鬼没の燃える男はベスター「虎よ、虎よ!」、生物が自己情報の伝達によって融合し多様性と高い進化速度を得るというのはラッカー「ソフトウェア」。
自身をソフトウェア化し、ネット上のリソースでシミュレートさせるってのは攻殻かイーガンか。


それにキャラクターも良いです。パワフルでどこかすっとぼけたおばさんのパウエル夫人も捨てがたいですが、何といってもレイが最強ですね。
最後の最後でツ○デ○キャラってことが判明するシーンは最高。




余談。
解説で巽孝之がテクノゴシックテクノゴシック連呼してましたけど、本当にこの人はレッテル付けが好きなんだなあ。
前にニール・スティーヴンスンを”アルケミーパンク”とかレッテル付けしてたけど、その後まったく用いられていないのはご愛嬌ってことでしょうか。
☆☆☆☆☆